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社会人3年目、小さめ会社のひよっこ法務女子。日々のもやもやを投げつけます。(ご指導ご鞭撻募集中です)

基本契約と個別契約の優劣

初めて取引基本契約書なるものを見た時からずっと疑問に思っていたのですが、しばらく前の法友会の会誌にこの話題が取り上げられていました。(ような気がします)

つまり、

  • 一般的には、基本契約と個別契約では個別契約が優先すると考える(し、契約書にもそのように記載する)
  • しかし、法務が契約関係を統制するというガバナンス的な観点からすると、基本契約を優先させる(旨を基本契約書に書く)のもアリ、またはそうすべきなのではないか

という話です。

この問題、お利口法務としては「ケースバイケースでリスクを考慮して判断すべきですね」みたいなテンプレートとして保存しておけば何にでも使えそうな答えしかできないと思います。(ある相手方が隙あらば注文書の裏に要らない文言を付けて来ようとするので、その会社との基本契約には基本契約優先と書いておくことにした...とか)

しかし、社内の制度ないし雛形にすることを考えたときに、どちらを採っておくのがお得・適切なのか。

基本契約優先とすると

 基本契約優先とすると、法務から見るとなんとなく統制が効いていそうな気持ちになれます(し、一定の効果もあるのかもしれません)。

しかしまず、後から「やはり個別契約で基本契約と違うことを定めたい」ということになった場合の処理コストが上がります。すなわち、基本契約優先といっても抜け道を用意しないわけにはいかないので、たとえば「基本契約を排除する旨を書面で明確にした上で両者が基本契約の名義人以上の権限を有する者の押印により個別契約を締結した場合は個別契約が優先」(※厳しい例です)みたいなことを書きます。そうするとこれまでは注文書の備考欄に書いて終わりにしていたようなことでも、契約書らしい体裁を整えないといけなくなり、ハンコ押したり送ったりの手間がかかるということになります。あと、昭和の因習(?)を捨てきれず、何がどう取引の実態と合致していなくても基本契約(雛形)を結んだ上で、実際の取引合意は別途の契約書(雛形)により行っている、というような実態がある場合には、別途の雛形をいちいち修正しないといけなくなります。

それから、恐らくこちらの方が重要ですが、基本契約優先で締結しようとした場合には一定数の相手方から修正依頼が来ることが予想され、それを跳ね除ける理由づけが難しいです。(個別契約優先の方が法的な考え方からは原則に近く、原則とは違うことをするからには上手く説明がつかないと、、と思っているのですが、実はそんなこともなかったりするのでしょうか?)

個別契約優先とすると

そういったあれこれから、結局やっぱ個別契約優先の方が良いよね、ということになる気もするのですが、そうすると当然、基本契約を優先しようとしていた目的、つまりガバナンスは効かなくなることになります。 

ここでいうガバナンスが効かなくなるというのは、

  • 基本契約書は法務が審査しているけれど、注文書やそれに類するものの審査はしていない(しなくて良いルールになっている)場合に、注文書類に「裏面約款」や「規約」「備考」が付されていたり(なお、民法改正に関わる話が生じるのかどうかは不勉強でさっぱり分かりません)、
  • 契約書だという認識が現場で生じない書類(担当者間の議事録など)に基本契約のルールと異なることが書かれていて、

その結果、法務部門の認識とは異なる契約が結ばれてしまうことを指すのだろうと思っています。

そういったものが有効な合意として扱われるのかどうかもケースバイケースでしょうけれども、合意として扱われる場合には、法務の与り知らぬところで法務の認識と異なる契約がなされてしまっていた、という事態は生じうることになります。

果たしてこれは統制すべきリスクなのか。

というとよく分からなくて、確かに「ろくに事業部門が読まないまま、又は考えないまま個別契約(に当たる書類)を作成し、そこに法務から見ると許しがたい不利な記載があった」ということは十分にあり得ると思います(特に”個別契約は法務の審査対象外”としているような場合には)。これはリスクですね。しかし、法務の与り知らぬところで不利な合意がなされる恐れがあるからといって、事業における全ての合意に法務が関与し、コントロールすることを志向するのは、実情としても困難だし、ナンセンスであるような気もします。

すでに法務部門は、会社としての基本的な姿勢、大きな枠組みとしての基本契約は示しています。そこから先、別内容の(個別・付随・補足的)契約を締結するか、基本契約にどういった変更を加えるかは、第一に(社内的な)合意の主体である事業部門が考えるべきことではないでしょうか。もちろん事業部門から相談を受ければその別契約の良し悪し等について一緒に考えることはできますが、それはあくまで事業部門を補助する立ち位置での話であって、事業部門が勝手をしないよう法務部門が管理・統制する立ち位置にある話ではありません。

つまり 法務としては、大きな枠組みとしての「基本契約」を示すところまでが適切なリスク統制範囲、ガバナンスすべき範囲で、そこから先は事業部門が個別の事案に応じてリスクコントロールすべき、と言っても良いのではないかと思います。

今のところの結論

ここまで考えて、そうは言っても、事業部門がうっかりおかしな個別契約を結ばないように監視なり教育なりをするのも法務部門の役割の一つだよなぁ、と思いました。

審査での粘り強い指摘なり契約関係の研修なりを継続的に行って、事業部門との連携を強めていき、信頼関係を築き、事業部門が変な個別契約を結びそうになったらすぐ法務に相談が来る状態を整えれば、「基本契約優先」などと書いてガバナンスとか言わなくても良いわけです。その状態をつくるのも法務部門の責務です。

そうすると、「基本契約優先」と基本契約書に書くのは、自社の事業部門と法務部門がうまく連携できていないことについて、開き直っているようなものなのじゃないかという気がしてきます。さらに言うと、法務部門が責務を放棄しているせいで、個別契約を結ぶのに余分なコストがかかるのに、そのコストを相手方に(も)負担させようとしている気もしてきます。

もしそうであれば、ちょっと「基本契約優先」とは書けない。恥ずかしいし申し訳ない。

そうじゃない理由で基本契約優先にしている会社さんがあったらごめんなさい。