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社会人3年目、小さめ会社のひよっこ法務女子。日々のもやもやを投げつけます。(ご指導ご鞭撻募集中です)

転職に至るまで、または弱小法務の存在意義

 大きな企業であったり信頼関係が十分であったり規制業種であったりして、待っていたら仕事が降ってくる法務はこんなことを考える必要もないのかもしれませんが、会社自体も小さくて、田舎で、取引先は大体固定されていて、昭和40年代締結の契約書が平然とまかり通っていて、法務部は「何年か前に総務部から独立したらしいけど何の仕事をしているのか全く分からない」と思われていて、法務部の人たちも「正直自分達が何をやっているのかよく分かっていない」ような場所が、この世には、あります。

そういうところに、「我が社も近時のコンプライアンス云々により法務の人員を強化」とかなんとかきれいな言葉でくるまれてちょっと学生時代に法律をかじっていた人間が放り込まれる。でも私は結局そこで自分の存在意義を見つけられませんでした。

そのことの理由が、自分にあるのか、上司にあるのか、会社にあるのか、社会にあるのか、転職した今でもよく分かりません。

きっと自分のやってきたことにも良し悪しあっただろうと思うので、とりあえず顧みてみようと思います。読んでいる方には、こんな「法務部」もあるんだよということで。

入社

そもそも、私はあんまり企業のこととか社会のこととかよく分かっていませんでした。労働や経済について考えることに熱心な学生ではありませんでした。そこがもう少しマシだったら、だいぶ話は違っていただろうとは思います。

入社してすぐ、とりあえず契約書を見てくれと言われて(勉強しながら)見始めたものの、しばらくやってみてわかったことは、

  • 法務部員は5人くらいいるのに法律用語(「瑕疵」とか)が分かる人はいない
  • これまでの「契約審査」では、インデントと誤字脱字を直すことを仕事にしていた
  • 契約書の内容について事業部門の人に話を聞く文化はない

ということでした。

そこで私がバリバリと契約審査をアップグレードできたら格好良かったのですが、例えば最近話題になった「トクサイ」みたいなのが全く分からない。企業がどうやって物を買ってどうやってお金を支払っているか知らない。「検収」が何かも分からない。リスクの想像力がないどころの話ではありませんでした。

もちろん部内の先輩に尋ねるわけですが、事業部門の業務フローにまで話が及ぶと「分からない」とのお答え。部門の人に聞きに行こうとするも、どこのフロアに誰がいるのか分からない。というか組織が把握できていない。せいぜい総務・人事・経理・営業くらいしか仕事のイメージがつかない。誰が偉くて誰が下っ端なのかもいまいち自信がない、というような状態でした。

渋る先輩のお尻を叩いて事業部門の知り合いのところに連れて行ってもらったり、その中で得た面倒見の良い人を捕まえたりして、少しずつ何とかやっていた、ような気がします。(書籍にも大幅にお世話になりました。BLJのブックレビューにたどり着くまでの間に、似たような契約書関係の書籍が10冊くらい家に眠ることになりました。今になって、買ったうちの何冊かは会社が費用負担してくれても良かったんじゃないかと思います)

契約審査の必要性

一通りの契約業務に大分慣れて、製本テープの存在なんかも(今思い出すとこれも法務部の人ではなくて事業部門の人に教わりました...)知った頃には、契約審査が嫌になっていました。

昭和40年代の契約書がまかり通る会社です。もちろん新しい契約も日々発生しますが、取引内容はほぼ完全に固定化されており、せいぜい目新しいのは、自社がサービスユーザーになるタイプくらい。

入社当初は、それでも会社のことを学ぼうと、契約書をもらう度に「これはどういう取引なのか」をしつこく尋ねて嫌がられていたのですが、そのうちに契約書が

  • どうとでも取れるような内容にとどまっており、口を出しても大して意味やリスクがないもの
  • リスクはあるがバーゲニングパワー的に修正できないことが分かり切っているもの
  • 契約書と取引内容が違っていたり契約書の内容が無茶苦茶だったりして、書き直した方が良いが、そう言うと「今まで同じ取引で同じ契約書でやってきたので問題ない」と反論されるもの

くらいしかないことがわかってきました。

(それでも契約書をもらう度に取引内容を尋ねていたのは功を奏したようで、事業部門の人たちが自ら説明してくれるようになりました。嬉しかったことの一つです。)

だんだんやる気を失った私は、裁判管轄を相手方所在地から被告となる者の本店云々に変えるだけの修正案をコピペするbotをたぶん1か月くらい続け、その後はそれにも飽きて、よほど変だったり上司の意向があったりしなければスルーするようになり果てました。

自分の飽きっぽさも良くなかったかもしれませんが、リスクと締結事務などのバランスを考えたときにどうするのが正しかったのか、分からないでいます。

上司ないし周囲の環境

誰も何も教えてくれない、と実家で愚痴を垂れると、両親から「会社は学校じゃないんだから」と諭されました。正論だと思います。

上司は会社法の機関周りにだけはやたら詳しいけど民法は読んだことがないタイプの(よくいる...?)人で、法務部門をどう扱ったらいいか良く分かっていない経営陣と、法務部の展望を明らかにしろと詰め寄る私との間で苦しむ中間管理職でした。「自ら事業部に出ていく法務に」とたまに唱えていましたが、彼自身も総務の出身で、事業のことは経験の範囲以上のことは分からないようでした。一方で法律についても「僕は法律のことは分からないから君が責任をもってやってくれ」と(社会人1年目の!)私に宣ったこと、私はいまだに根に持っています。

「法務は事業部門と信頼関係を築くことが大事」とどんなところでも書かれていますが、それを実践するのは私の力では困難でした。

きっと圧倒的な知識や能力、カリスマがあったら良かったのだと思います。でも、そんなものがあったらこんなところにはいないわけで、私は凡人(と並んでいいのかも疑問符が付くレベル)です。

まず、「若い女の子」が入ったぞということで、庶務に間違えられました。お茶汲み文化は2015年時点で実在していました。「若い女の子」が契約のことなんかで話に行っても、「若い女の子」に話すような話しかしてくれないという現象が何度も生じました。取引内容を聞くと「何でこの子がこんなこと聞くの?」と訝しげにされ、契約書確認に必要である旨を伝えると「難しいことができるんだねえ、頑張ってるねえ」と目を細められ、しばらく話すと「ところで彼氏はいるの?」と聞かれる。そういう雰囲気でした。一方で私が法律を勉強して総合職で入社していることを知られている人からは、(冗談とはいえ)怖がられました。

 それでもとにかく知り合いを増やさないと信頼関係も何もないので、営業には力を入れていました。「若い女の子」としてしか扱ってもらえないなら、そうであることがメリットになるやり方で営業していくしかない。お茶を汲んでご機嫌伺いに行く。掃除をしながら話しかけに行く。私と同世代の娘がいる人に優先的に話しかける(大体優しい)。顔見知りになったらその人が喫煙所や自販機に行く時間帯を狙って廊下で待ち伏せし、定期的に情報を仕入れる。そんなことばかりしていました(遊んでいるみたいですが、そのくらい暇だったんです)。会社のことを教えてもらおうと、シニアとか定年延長とか呼ばれている人達にも良く声をかけていましたが、今思うとこれは新しい案件を得る役には立たないですね。(会社の歴史や細かい商品知識を教えてくれるのはとても有難かったです)

もっともっと社内のことを把握できていたら、実力があったら、勇気があったら?、こうやって仕入れた情報を使って他部門の業務に食い込んだり、自分の業務に生かしたりできたのかもと思います。でも、たまに役立ったりちょっとした案件をゲットしたりはあったものの、大勢に影響はありませんでした。

仲良くなるだけじゃ信頼関係は築けません。何か仕事で相手に与えるものがないと駄目なんだろうと思うのですが、自分には「隠れたリスクを発見する」といったような技をやってのけることは最後までできませんでした。タイピングが(相対的に)速いので議事録作りをよく頼まれるようになったくらいかな。

上司からも、法務マターといえるような仕事が降りてくることは最後までほとんどありませんでした(そもそも仕事自体が少なかったです)。上司自身が何をしていたのかというと、一つには機関系の業務を一手に握っておられました。総会前などは忙しそうでしたが、下に仕事を振ることは(こちらが頼んでも)一切なく、自分の仕事と思い定めておられる様子でした。それ以外に何をしていたのかはよく分かりません。基本的に秘密主義でした。スライドを作っていたことが多かったような気がします。

そういえば一度、何だか最近上司が忙しそうにしたり外出したりしているなと思っていたら、弁護士の友人から当社が訴訟係属中である旨を(たまたま法廷で名前を見たとのことで)教えてもらって、詳細を上司に聞きに行ったところ頑なに黙秘されたことがありました。無力だなぁと思ったのを覚えています。(なお、後から別ルートで詳細を聞きましたが、隠すような案件とも思えませんでした。訴訟案件は全て管理職限定情報とする運用は他の会社でも一般的なんでしょうか?)

その他の業務

そんな会社にもコンプライアンス関係の研修はあって、それは結構楽しかったです。好きに変えても誰にも何も言われないフリーダムさだったので、ひたすら細かい字が書いてあったスライドを全部事例問題ベースの資料に変えて、勝手にエモーショナルコンプライアンスを目指していました。でも自分がやっていて楽しかっただけで、上司からのフィードバックなどは一切なかったので、結果的にどうだったのかはよく分かりません。

他の業務はほとんど法務というより総務…良くて監査?に振り分けられる業務ばかりでした。それらもそれなりに楽しかったです。展望はありませんでしたが、経験にはなりました。それから、社会人基礎みたいなあれこれや事務作業のtipsなんかも覚えられたので、悪いことばかりではありませんでした。

 転職

結局、他にもプライベート含む様々な理由があって転職して、そのこと自体に後悔はないのですが、あの会社にい続けたらどうだったのかな、とたまに思います。

3年も経たないうちに仕事ができるようになって信頼関係を築くのは無理でも、長くいれば信頼関係も築けたのかな、とか。

築けたとして、信頼関係の先にあったはずの仕事というのはどういうものだったのか。法務マターを掘り起こせたのか。私が見つけられなかっただけだったのか、それとも法務マターなんて(少なくとも恒常的には)存在しなかったのか。

私のような新人に与えられる情報はきっとごく一部のはずで、上司なんかはもっと別の仕事を抱えていたのかもしれませんが、それを考慮したとしても、そもそもあの会社に立派な「法務部」は必要だったのか。あの会社にとって私は最初から不要なコストだったのではないか。(私の後任も採用したそうですが...)

 

まだまだ経験が浅くて想像力にも限界はありますが、それでもなお、大きくない会社にまで「強くて大きい法務」が必要かというと、そうでもないような気がするのです。

校閲兼事務作業者1名と、実務から不祥事対応まで動ける立場の人が1名、これで良かったような気がするのです。

一言で言えばジョブミスマッチで片付いちゃうのかもしれませんが、いまだにもやもやしています。