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社会人3年目、小さめ会社のひよっこ法務女子。日々のもやもやを投げつけます。(ご指導ご鞭撻募集中です)

法務部門で下っ端が上司に希望すること

この記事は、法務系 Advent Calendar 2017 の参加エントリです。

はじめに

はじめまして。@h_kitaokaさんからバトンを受け取りました。

社会人3年目、法務も3年目のまごうことなき若手(?)です。これまではとても書く側には回れないと読者に徹していたのですが、お祭りに参加してみたい一心から、勢いで登録してしまいました。期日までには書くことも思いつくだろうと楽観していたのに、頭を捻っても叩いても何も思いつかず、日頃いかに自分が140字以上のことを考えていないかを思い知らされた次第です。この点を反省できただけでも、自分のためには参加した意義があったと思います。

ということで、今後はもっと問題意識とやる気をもって業務に取り組んで参ります。この度はありがとうございました。~完~

 

としたいところなのですがさすがにそういうわけにもいかないので、普段から他力本願な自分の頭を占めがちなこと、すなわち「上司への不満」を正直に書かせていただきます。これまでの短い経験から、3~4人を比較・総合しての感想となります。先進的なところの一切ない昭和型小企業勤めで、どれだけ普遍性があるか全く分からない上に、legalAC2017流行語風にいえば「ポエム」ですが、上司の立場から、部下の立場から、忌憚なき厳しいご意見を頂戴できれば幸いです。

 他部門へのアクセスを支援してほしい

 法務部門は他部門との信頼関係が重要です。積極的に他部門とコミュニケーションをとりましょう。

あるべき法務像としてもはや証明を要しないお題目と思われますが、お題目を唱えるならぜひ部下の自主的な営業に任せずにコミュニケーションを支援してほしいと思っています。具体的にお願いしたい事項は2つ。

  • (特に将来の契約審査や法律相談につながりそうな)情報を共有してほしい
  • 打ち合わせなどの場に連れて行って顔を売らせてほしい

1つめ、情報共有のお願いについて。

管理職というのは、特に法務部門の管理職というのは、(私の想像の中では)社内の重要情報をたくさん持っているものだと思います。中には決して部下にも漏らせない情報もあるのだろうと思います。しかし、そういった重要情報の取り扱いを常時気にしておられるせいか、必要以上にneed-to-know basisが徹底されているのではないか、と不満に思うことがあります。 

例えば、新規に何かのシステムを導入する、という企画がIT部署から持ち上がり、経営会議だの常務会だので承認され、部長会議みたいなところで周知されたとします。その時点で全社の部長格とIT部署内には情報共有が完了し、その後の早い段階で、当該企画が業務に関係のある部署の担当者も情報を入手するのが常であるように思います。しかし、事業からの距離が遠い法務部門の担当者は、厳密にneed-to-knowに従うほど、情報共有されるのが遅くなりがちです。最悪の場合、システム導入の契約書案をIT部署の担当者が持ってきて初めて企画の存在を知る、なんてことになります。最低限の仕事をこなすにはそれでも問題ないのかもしれませんが、人は情報が来ない人のところには話をしに行かないものです(と3年の社会人経験から学びましたが、鶏と卵のような気もします)し、法務部員が自ら企画についてIT部署に声をかけに行くなんてことはできないまま、受動的に契約書を読むことになってしまいます。それでは上記お題目には反するのではないでしょうか?

業務内外の関係を駆使して素早く情報入手することも法務として評価の対象なのであれば文句は言いませんが、そうでないのなら、是非ともせめて部長会議のあった段階で、部下に「こういう企画が始まるらしいから相談があるかもね」くらいの声はかけていただけないかと思います。

最近は上司からの情報共有を諦めて、伝手をたどって他部署内での共有情報を横流ししてもらっているのですが、その情報があったおかげで相談を受ける際にスムーズだったと感じることが割と頻繁にあります。恐らく上司の皆さんが思っている以上に、関係なさそうだけれども役に立つという情報は多いと思います。

 

2つめ。打合せ同行のお願いについて。

特に役員への報告などになると、一人でこそっと行ってしまう上司が一定数おられるように思うのですが、その案件の担当者くらいは連れて行っていただけると大変有難いです。単独ではアクセスしにくい役員さんにも、同行すれば顔を覚えていただけるかもしれませんし、それがいずれ何かにつながるかもしれません。さらに重要なのは、役員さんの考え(方)を間近に聞けることが、その後の報告資料作成でも、案件の対応方針でも、新企画の通し方でも、様々な場面で役立つに違いないということです。

他部署との打ち合わせについても同様で、担当者一人で飛び込み営業はしょっぱくても上司同士は知り合いだったりすると思います。打ち合わせのついでで構いませんので、担当者の顔を売るのを支援していただければ、次回以降ちょっとしたことを頼んでもらえるようにもなるかもしれません。新規案件獲得につながるかもしれません。

議事録くらいは作りますので、ぜひカバン持ちをさせてください。よろしくお願いします。

部門の目指す理想を明確にしてほしい

法務部門というのは、会社によってカラー、スタンスの差が大きい部門の一つではないかと思っています。大きい法務か小さい法務か。ビジネス支援か管理統制か。経営陣に寄り添うのか現場に寄り添うのか。そういったスタンスによって重点を置く業務も変わってきますし、例えば法務自ら交渉に出るか出ないかといった細かな差も生じます。

とりうるスタンスの幅が広いというのは、事業部門に価値を認められないと存在できないスタッフ部門の中でも、とりわけ吹けば飛ぶような立場にあって、法務部門が部門として会社にどういう価値を提供できるのか、何を提供すれば会社にとって最善なのかを自問し、有用性を証明し続けないといけないことの裏返しであるように思えます。そうであるならば、法務部門の上に立つ人(課長なのか部長なのか役員なのか)は、広汎な業務範囲の中で悩むメンバーをまとめ、目指すべきビジョンを示し、採用するスタンスを決定することで、会社(≒他部門)に対して法務部門の価値を明らかにしてゆかなければならないのではないかと思われるところです。

この検討を怠ると、いざスタンスが問題になる場面で指示が場当たり的になり、部下の混乱を招きます。部下は上司の提示するビジョンを忖度して業務を遂行しようとしますが、それもうまくゆかなくなるでしょう。極端ですが、最終的には「何をやってくれるのか分からない」部署として事業部門に不信を抱かせることになるかもしれません。

とりうるスタンスの差が大きいからこそ、「こういう法務を目指す」という北極星を、メンバーの上に輝かせていただきたいのです。それもなしに「何がやりたい?」とか言ってボトムアップに期待したり、強化とか向上とかうたって方向性の分からない闇雲なレベルアップを図ろうとするのは、ちょっと無理があるように感じてしまうのです。

また、もう少し地に足のついた(?)要望をすると、上司による明確なビジョンの提示は、明確な評価につながると思っています。売上目標のように定量的・絶対的なゴールがなく、自分の業務遂行レベルが高いのか低いのかも(少なくとも社内にいる限り)良く分からない法務部門にあっては、「理想の部門像」と現状の差分を測ることでしか課題認識ができず、個人目標も立てにくいように感じます。ビジョンが提示されていれば、どういうことをやると評価されるのか、自分のやっていることは何が足りないのかが(自分がその法務部門にい続けたいかそうでないかも含めて)検討しやすくなり、かつ上司にとっても評価がしやすくなるはずです。

評価基準・評価理由が不明確というのは、部下としては非常に不幸な気持ちになることの一つなので、ビジョンの提示によって、その点が少しでもクリアになるといいなと思っています。

その他

  • 部下が困っているときに自分は担当じゃないとか言って逃げたりせず、責任をとってほしい
  • 部下が対応方針に悩んでいるとき、「うまいことやっといて」などと言わずに最終判断をしてほしい

法務に限らず、困った上司あるあるとしてよく出てくる話だと思います。

  • モチベーションを下げることを言わないでほしい

これも法務に限らないかもしれませんが、下っ端の仕事は、失敗してもリスクの低い、相対的に重要度の低い仕事が多いと思います。当然です。当然ですが、あまりそれを強調しないでいただけると有難いです。特に法務では、うまくやったからといってすごく感謝される仕事も多くないので、あんまり「くだらない仕事をしている」と認識させられると、自分の存在意義についてちょっと悩んでしまいます。

また、似たような話ですが、色んなところ(例:監査部門)からの要請で行わざるを得ない部類の仕事について、露骨に「こんなことをやっても無駄」とか「面倒」とか言わないでほしいです。

  • (特に勉強面について)各人に自主的に努力させる、各人のモチベーションを上げることを主眼に置いた支援をしてほしい

やる気のある部下フレンドリーな上司の方には大変申し訳ないのですが、できればチーム内の勉強会には管理職(ないし上の方の人)は参加せず、下の自主性に任せていただけると有難いです。というのは、勉強会に上司が参加すると、経験上、萎縮効果からだいたい形骸化する気がするからです。参加するのではなくて、勉強会のための業務時間調整を助けてくれるとか、勉強会したと報告が来たら褒めてくれるとか質問に答えてくれるとか勉強内容を活かせる業務を与えてくれるとか、資格を取ったら一杯奢ってくれるとか(?)、そういう支援の方が有難いなと思っています。

しかし一方で、文学部卒で人事部志望だったのに法務部に配属されてしまって落ち込んでいる新入社員に、勉強のできる上司が、自分のお気に入りの内田民法3冊を与えるだけ与えて「自主性に任せて」いるのを見ると可哀想になります。確かに基礎からきちんと学ぶために基本書を(内田民法が適切かどうかは脇に置くとして)読むのが大切だというのは分かりますし、読むかどうかは本人次第というのも分かるのですが、そこまでのモチベーションがない部下は置いてきぼり、というのは、ちょっと冷たいような気がします。勉強する雰囲気にうまく巻き込んでいく方法を部門として考えていけないものでしょうか。(上司ではありませんが先輩として試行錯誤しているので、書けるような発見と書く機会が揃えばいつかどこかでまとめたいです)

おわりに

書いている最中、何度も「甘えすぎでは......」という声が聞こえました。大変申し訳ありません。この場でしか言いませんのでどうかご容赦ください。

それに、自社法務の業務の全体も知らないのに偉そうなことを言い、自分のこともできないのに上司に要求だけするのはだいぶ恥ずかしい部下だなとも思いました......。深く反省し、今後はきちんと与えられた業務で成果を出せるよう努力する所存でございます。引き続きご指導、ご鞭撻のほど何卒よろしくお願い申し上げます。

 

さて、 明日は敬愛するタフ姉さん、@miraisaaanです!

基本契約と個別契約の優劣

初めて取引基本契約書なるものを見た時からずっと疑問に思っていたのですが、しばらく前の法友会の会誌にこの話題が取り上げられていました。(ような気がします)

つまり、

  • 一般的には、基本契約と個別契約では個別契約が優先すると考える(し、契約書にもそのように記載する)
  • しかし、法務が契約関係を統制するというガバナンス的な観点からすると、基本契約を優先させる(旨を基本契約書に書く)のもアリ、またはそうすべきなのではないか

という話です。

この問題、お利口法務としては「ケースバイケースでリスクを考慮して判断すべきですね」みたいなテンプレートとして保存しておけば何にでも使えそうな答えしかできないと思います。(ある相手方が隙あらば注文書の裏に要らない文言を付けて来ようとするので、その会社との基本契約には基本契約優先と書いておくことにした...とか)

しかし、社内の制度ないし雛形にすることを考えたときに、どちらを採っておくのがお得・適切なのか。

基本契約優先とすると

 基本契約優先とすると、法務から見るとなんとなく統制が効いていそうな気持ちになれます(し、一定の効果もあるのかもしれません)。

しかしまず、後から「やはり個別契約で基本契約と違うことを定めたい」ということになった場合の処理コストが上がります。すなわち、基本契約優先といっても抜け道を用意しないわけにはいかないので、たとえば「基本契約を排除する旨を書面で明確にした上で両者が基本契約の名義人以上の権限を有する者の押印により個別契約を締結した場合は個別契約が優先」(※厳しい例です)みたいなことを書きます。そうするとこれまでは注文書の備考欄に書いて終わりにしていたようなことでも、契約書らしい体裁を整えないといけなくなり、ハンコ押したり送ったりの手間がかかるということになります。あと、昭和の因習(?)を捨てきれず、何がどう取引の実態と合致していなくても基本契約(雛形)を結んだ上で、実際の取引合意は別途の契約書(雛形)により行っている、というような実態がある場合には、別途の雛形をいちいち修正しないといけなくなります。

それから、恐らくこちらの方が重要ですが、基本契約優先で締結しようとした場合には一定数の相手方から修正依頼が来ることが予想され、それを跳ね除ける理由づけが難しいです。(個別契約優先の方が法的な考え方からは原則に近く、原則とは違うことをするからには上手く説明がつかないと、、と思っているのですが、実はそんなこともなかったりするのでしょうか?)

個別契約優先とすると

そういったあれこれから、結局やっぱ個別契約優先の方が良いよね、ということになる気もするのですが、そうすると当然、基本契約を優先しようとしていた目的、つまりガバナンスは効かなくなることになります。 

ここでいうガバナンスが効かなくなるというのは、

  • 基本契約書は法務が審査しているけれど、注文書やそれに類するものの審査はしていない(しなくて良いルールになっている)場合に、注文書類に「裏面約款」や「規約」「備考」が付されていたり(なお、民法改正に関わる話が生じるのかどうかは不勉強でさっぱり分かりません)、
  • 契約書だという認識が現場で生じない書類(担当者間の議事録など)に基本契約のルールと異なることが書かれていて、

その結果、法務部門の認識とは異なる契約が結ばれてしまうことを指すのだろうと思っています。

そういったものが有効な合意として扱われるのかどうかもケースバイケースでしょうけれども、合意として扱われる場合には、法務の与り知らぬところで法務の認識と異なる契約がなされてしまっていた、という事態は生じうることになります。

果たしてこれは統制すべきリスクなのか。

というとよく分からなくて、確かに「ろくに事業部門が読まないまま、又は考えないまま個別契約(に当たる書類)を作成し、そこに法務から見ると許しがたい不利な記載があった」ということは十分にあり得ると思います(特に”個別契約は法務の審査対象外”としているような場合には)。これはリスクですね。しかし、法務の与り知らぬところで不利な合意がなされる恐れがあるからといって、事業における全ての合意に法務が関与し、コントロールすることを志向するのは、実情としても困難だし、ナンセンスであるような気もします。

すでに法務部門は、会社としての基本的な姿勢、大きな枠組みとしての基本契約は示しています。そこから先、別内容の(個別・付随・補足的)契約を締結するか、基本契約にどういった変更を加えるかは、第一に(社内的な)合意の主体である事業部門が考えるべきことではないでしょうか。もちろん事業部門から相談を受ければその別契約の良し悪し等について一緒に考えることはできますが、それはあくまで事業部門を補助する立ち位置での話であって、事業部門が勝手をしないよう法務部門が管理・統制する立ち位置にある話ではありません。

つまり 法務としては、大きな枠組みとしての「基本契約」を示すところまでが適切なリスク統制範囲、ガバナンスすべき範囲で、そこから先は事業部門が個別の事案に応じてリスクコントロールすべき、と言っても良いのではないかと思います。

今のところの結論

ここまで考えて、そうは言っても、事業部門がうっかりおかしな個別契約を結ばないように監視なり教育なりをするのも法務部門の役割の一つだよなぁ、と思いました。

審査での粘り強い指摘なり契約関係の研修なりを継続的に行って、事業部門との連携を強めていき、信頼関係を築き、事業部門が変な個別契約を結びそうになったらすぐ法務に相談が来る状態を整えれば、「基本契約優先」などと書いてガバナンスとか言わなくても良いわけです。その状態をつくるのも法務部門の責務です。

そうすると、「基本契約優先」と基本契約書に書くのは、自社の事業部門と法務部門がうまく連携できていないことについて、開き直っているようなものなのじゃないかという気がしてきます。さらに言うと、法務部門が責務を放棄しているせいで、個別契約を結ぶのに余分なコストがかかるのに、そのコストを相手方に(も)負担させようとしている気もしてきます。

もしそうであれば、ちょっと「基本契約優先」とは書けない。恥ずかしいし申し訳ない。

そうじゃない理由で基本契約優先にしている会社さんがあったらごめんなさい。

転職に至るまで、または弱小法務の存在意義

 大きな企業であったり信頼関係が十分であったり規制業種であったりして、待っていたら仕事が降ってくる法務はこんなことを考える必要もないのかもしれませんが、会社自体も小さくて、田舎で、取引先は大体固定されていて、昭和40年代締結の契約書が平然とまかり通っていて、法務部は「何年か前に総務部から独立したらしいけど何の仕事をしているのか全く分からない」と思われていて、法務部の人たちも「正直自分達が何をやっているのかよく分かっていない」ような場所が、この世には、あります。

そういうところに、「我が社も近時のコンプライアンス云々により法務の人員を強化」とかなんとかきれいな言葉でくるまれてちょっと学生時代に法律をかじっていた人間が放り込まれる。でも私は結局そこで自分の存在意義を見つけられませんでした。

そのことの理由が、自分にあるのか、上司にあるのか、会社にあるのか、社会にあるのか、転職した今でもよく分かりません。

きっと自分のやってきたことにも良し悪しあっただろうと思うので、とりあえず顧みてみようと思います。読んでいる方には、こんな「法務部」もあるんだよということで。

入社

そもそも、私はあんまり企業のこととか社会のこととかよく分かっていませんでした。労働や経済について考えることに熱心な学生ではありませんでした。そこがもう少しマシだったら、だいぶ話は違っていただろうとは思います。

入社してすぐ、とりあえず契約書を見てくれと言われて(勉強しながら)見始めたものの、しばらくやってみてわかったことは、

  • 法務部員は5人くらいいるのに法律用語(「瑕疵」とか)が分かる人はいない
  • これまでの「契約審査」では、インデントと誤字脱字を直すことを仕事にしていた
  • 契約書の内容について事業部門の人に話を聞く文化はない

ということでした。

そこで私がバリバリと契約審査をアップグレードできたら格好良かったのですが、例えば最近話題になった「トクサイ」みたいなのが全く分からない。企業がどうやって物を買ってどうやってお金を支払っているか知らない。「検収」が何かも分からない。リスクの想像力がないどころの話ではありませんでした。

もちろん部内の先輩に尋ねるわけですが、事業部門の業務フローにまで話が及ぶと「分からない」とのお答え。部門の人に聞きに行こうとするも、どこのフロアに誰がいるのか分からない。というか組織が把握できていない。せいぜい総務・人事・経理・営業くらいしか仕事のイメージがつかない。誰が偉くて誰が下っ端なのかもいまいち自信がない、というような状態でした。

渋る先輩のお尻を叩いて事業部門の知り合いのところに連れて行ってもらったり、その中で得た面倒見の良い人を捕まえたりして、少しずつ何とかやっていた、ような気がします。(書籍にも大幅にお世話になりました。BLJのブックレビューにたどり着くまでの間に、似たような契約書関係の書籍が10冊くらい家に眠ることになりました。今になって、買ったうちの何冊かは会社が費用負担してくれても良かったんじゃないかと思います)

契約審査の必要性

一通りの契約業務に大分慣れて、製本テープの存在なんかも(今思い出すとこれも法務部の人ではなくて事業部門の人に教わりました...)知った頃には、契約審査が嫌になっていました。

昭和40年代の契約書がまかり通る会社です。もちろん新しい契約も日々発生しますが、取引内容はほぼ完全に固定化されており、せいぜい目新しいのは、自社がサービスユーザーになるタイプくらい。

入社当初は、それでも会社のことを学ぼうと、契約書をもらう度に「これはどういう取引なのか」をしつこく尋ねて嫌がられていたのですが、そのうちに契約書が

  • どうとでも取れるような内容にとどまっており、口を出しても大して意味やリスクがないもの
  • リスクはあるがバーゲニングパワー的に修正できないことが分かり切っているもの
  • 契約書と取引内容が違っていたり契約書の内容が無茶苦茶だったりして、書き直した方が良いが、そう言うと「今まで同じ取引で同じ契約書でやってきたので問題ない」と反論されるもの

くらいしかないことがわかってきました。

(それでも契約書をもらう度に取引内容を尋ねていたのは功を奏したようで、事業部門の人たちが自ら説明してくれるようになりました。嬉しかったことの一つです。)

だんだんやる気を失った私は、裁判管轄を相手方所在地から被告となる者の本店云々に変えるだけの修正案をコピペするbotをたぶん1か月くらい続け、その後はそれにも飽きて、よほど変だったり上司の意向があったりしなければスルーするようになり果てました。

自分の飽きっぽさも良くなかったかもしれませんが、リスクと締結事務などのバランスを考えたときにどうするのが正しかったのか、分からないでいます。

上司ないし周囲の環境

誰も何も教えてくれない、と実家で愚痴を垂れると、両親から「会社は学校じゃないんだから」と諭されました。正論だと思います。

上司は会社法の機関周りにだけはやたら詳しいけど民法は読んだことがないタイプの(よくいる...?)人で、法務部門をどう扱ったらいいか良く分かっていない経営陣と、法務部の展望を明らかにしろと詰め寄る私との間で苦しむ中間管理職でした。「自ら事業部に出ていく法務に」とたまに唱えていましたが、彼自身も総務の出身で、事業のことは経験の範囲以上のことは分からないようでした。一方で法律についても「僕は法律のことは分からないから君が責任をもってやってくれ」と(社会人1年目の!)私に宣ったこと、私はいまだに根に持っています。

「法務は事業部門と信頼関係を築くことが大事」とどんなところでも書かれていますが、それを実践するのは私の力では困難でした。

きっと圧倒的な知識や能力、カリスマがあったら良かったのだと思います。でも、そんなものがあったらこんなところにはいないわけで、私は凡人(と並んでいいのかも疑問符が付くレベル)です。

まず、「若い女の子」が入ったぞということで、庶務に間違えられました。お茶汲み文化は2015年時点で実在していました。「若い女の子」が契約のことなんかで話に行っても、「若い女の子」に話すような話しかしてくれないという現象が何度も生じました。取引内容を聞くと「何でこの子がこんなこと聞くの?」と訝しげにされ、契約書確認に必要である旨を伝えると「難しいことができるんだねえ、頑張ってるねえ」と目を細められ、しばらく話すと「ところで彼氏はいるの?」と聞かれる。そういう雰囲気でした。一方で私が法律を勉強して総合職で入社していることを知られている人からは、(冗談とはいえ)怖がられました。

 それでもとにかく知り合いを増やさないと信頼関係も何もないので、営業には力を入れていました。「若い女の子」としてしか扱ってもらえないなら、そうであることがメリットになるやり方で営業していくしかない。お茶を汲んでご機嫌伺いに行く。掃除をしながら話しかけに行く。私と同世代の娘がいる人に優先的に話しかける(大体優しい)。顔見知りになったらその人が喫煙所や自販機に行く時間帯を狙って廊下で待ち伏せし、定期的に情報を仕入れる。そんなことばかりしていました(遊んでいるみたいですが、そのくらい暇だったんです)。会社のことを教えてもらおうと、シニアとか定年延長とか呼ばれている人達にも良く声をかけていましたが、今思うとこれは新しい案件を得る役には立たないですね。(会社の歴史や細かい商品知識を教えてくれるのはとても有難かったです)

もっともっと社内のことを把握できていたら、実力があったら、勇気があったら?、こうやって仕入れた情報を使って他部門の業務に食い込んだり、自分の業務に生かしたりできたのかもと思います。でも、たまに役立ったりちょっとした案件をゲットしたりはあったものの、大勢に影響はありませんでした。

仲良くなるだけじゃ信頼関係は築けません。何か仕事で相手に与えるものがないと駄目なんだろうと思うのですが、自分には「隠れたリスクを発見する」といったような技をやってのけることは最後までできませんでした。タイピングが(相対的に)速いので議事録作りをよく頼まれるようになったくらいかな。

上司からも、法務マターといえるような仕事が降りてくることは最後までほとんどありませんでした(そもそも仕事自体が少なかったです)。上司自身が何をしていたのかというと、一つには機関系の業務を一手に握っておられました。総会前などは忙しそうでしたが、下に仕事を振ることは(こちらが頼んでも)一切なく、自分の仕事と思い定めておられる様子でした。それ以外に何をしていたのかはよく分かりません。基本的に秘密主義でした。スライドを作っていたことが多かったような気がします。

そういえば一度、何だか最近上司が忙しそうにしたり外出したりしているなと思っていたら、弁護士の友人から当社が訴訟係属中である旨を(たまたま法廷で名前を見たとのことで)教えてもらって、詳細を上司に聞きに行ったところ頑なに黙秘されたことがありました。無力だなぁと思ったのを覚えています。(なお、後から別ルートで詳細を聞きましたが、隠すような案件とも思えませんでした。訴訟案件は全て管理職限定情報とする運用は他の会社でも一般的なんでしょうか?)

その他の業務

そんな会社にもコンプライアンス関係の研修はあって、それは結構楽しかったです。好きに変えても誰にも何も言われないフリーダムさだったので、ひたすら細かい字が書いてあったスライドを全部事例問題ベースの資料に変えて、勝手にエモーショナルコンプライアンスを目指していました。でも自分がやっていて楽しかっただけで、上司からのフィードバックなどは一切なかったので、結果的にどうだったのかはよく分かりません。

他の業務はほとんど法務というより総務…良くて監査?に振り分けられる業務ばかりでした。それらもそれなりに楽しかったです。展望はありませんでしたが、経験にはなりました。それから、社会人基礎みたいなあれこれや事務作業のtipsなんかも覚えられたので、悪いことばかりではありませんでした。

 転職

結局、他にもプライベート含む様々な理由があって転職して、そのこと自体に後悔はないのですが、あの会社にい続けたらどうだったのかな、とたまに思います。

3年も経たないうちに仕事ができるようになって信頼関係を築くのは無理でも、長くいれば信頼関係も築けたのかな、とか。

築けたとして、信頼関係の先にあったはずの仕事というのはどういうものだったのか。法務マターを掘り起こせたのか。私が見つけられなかっただけだったのか、それとも法務マターなんて(少なくとも恒常的には)存在しなかったのか。

私のような新人に与えられる情報はきっとごく一部のはずで、上司なんかはもっと別の仕事を抱えていたのかもしれませんが、それを考慮したとしても、そもそもあの会社に立派な「法務部」は必要だったのか。あの会社にとって私は最初から不要なコストだったのではないか。(私の後任も採用したそうですが...)

 

まだまだ経験が浅くて想像力にも限界はありますが、それでもなお、大きくない会社にまで「強くて大きい法務」が必要かというと、そうでもないような気がするのです。

校閲兼事務作業者1名と、実務から不祥事対応まで動ける立場の人が1名、これで良かったような気がするのです。

一言で言えばジョブミスマッチで片付いちゃうのかもしれませんが、いまだにもやもやしています。